資料問題⑮:信用創造とバブル経済(視認性改善・決定版)
1. 信用創造機能とマネーサプライ
銀行制度における「信用創造」は、預金準備率によってその増え方が変化する。次の【資料1】のモデルと計算式を基に、1980年代後半の金融緩和政策の影響を考察しなさい。
【資料1】信用創造の乗数効果(お金が増える仕組み)
理論上の預金総額 = 最初のお金 ÷ 預金準備率
Case A: 準備率 10% (0.1)
Case B: 準備率 1% (0.01)
金融緩和とは:
金利を下げ、貸出規制を緩めること。
→ 市場にお金が溢れかえる(過剰流動性)
【資料2】バブル期の経済指標推移
| 年 | 公定歩合 (金利) |
お金の量 (伸び率) |
GDP (成長率) |
|---|---|---|---|
| 1985 | 5.0% | 8.4% | 4.4% |
| 1987 | 2.5% (最低) |
10.4% (急増) |
4.2% |
| 1989 | 2.5% | 12.0% | 4.8% |
※経済成長(GDP)以上に、お金の量(マネーサプライ)が増えている。
問1 【資料1】【資料2】から読み取れる、1980年代後半の金融政策とその影響に関する分析として、最も論理的かつ妥当な記述を選びなさい。
【正解:①】
解説:
②が誤り: 準備率を上げるとお金は減ります。資料2ではお金が急増しています。
③が誤り: 民間銀行の貸し出し増加(信用創造)が主因です。
結論: 金利引き下げにより、銀行がどんどん貸し出しを行った結果、実体経済以上に「お金」だけが増えすぎた状態(バブル)になりました。
2. 製造業の変質と「財テク」ブーム
バブル期、多くの日本企業(特に製造業)は本業の利益よりも、金融・不動産投資による利益を追求するようになった。なぜそのような行動変容が起きたのか、次の【資料3】【資料4】から構造的に分析しなさい。
【資料3】製造業の利益の内訳推移
1985年(プラザ合意)以降、本業よりも投資で稼ぐようになった。
【資料4】資金調達環境の変化
株価上昇のメリット
株価が上がっているため、企業は株式を発行することで、銀行から借りるよりも「極めて低いコスト(ほぼ金利ゼロ)」で巨額の資金を集められた。
集めた大量の資金を、設備投資ではなく、土地や株に回して運用した。
問2 【資料3】【資料4】から読み取れる、バブル期の製造業が「財テク」に傾倒していった要因として、最も適切な記述を選びなさい。
【正解:①】
解説: 1985年のプラザ合意以降、円高不況で本業(輸出)は苦戦しました。しかし、国内は金融緩和でカネ余り状態。企業は「株を発行してタダ同然で金を集め、それを別の株や土地に投資する」というマネーゲームにのめり込みました。
3. 「合成の誤謬」とバランスシート不況
バブル崩壊後、日本経済は長期の停滞に陥った。なぜ景気対策をしても回復しなかったのか。次の【資料5】【資料6】から、企業行動の変化が経済全体に及ぼした悪循環を考察しなさい。
【資料5】バブル崩壊後の企業の状況
■ バブル期
100億円
80億円
健全(資産 > 借金)
■ 崩壊後
40億円
80億円
債務超過(資産 < 借金)
企業の行動変化
生き残るために、利益を全て「借金の返済」に回す。
(設備投資や賃上げはストップ)
【資料6】民間企業の資金過不足
問3(考察) バブル崩壊後、個々の企業にとっては「借金返済」が合理的で正しい行動であったが、全員がそれを行った結果、日本経済全体にとっては深刻な不況が長期化する原因となった。この現象(合成の誤謬)の説明として、最も適切なメカニズムを選びなさい。
【正解:②】
解説: 「バランスシート不況」のメカニズムです。
1. 個人の正解: 借金まみれの企業は、投資よりも返済を優先するのが正しい。
2. 全体の失敗: しかし、誰もお金を使わず、誰も借金をしてくれない世界では、誰の売上も立たず、経済は縮小し続けます。
3. 政策の無効化: 「お金を借りてくれない」ため、日銀がいくら金利を下げても効果がありませんでした。
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