資料問題⑫:大正デモクラシーの到達点と崩壊(ハイレベル)
1. 「成金」の発生と米騒動のメカニズム
第一次世界大戦中、日本経済は空前の好景気(大戦景気)に沸いたが、それは同時に激しい社会不安を引き起こし、のちの「米騒動」へと繋がった。次の【資料1】【資料2】のデータを分析し、好景気が暴動を生んだ経済的メカニズムを解き明かしなさい。
【資料1】WWI期間中の経済指標(指数)
【資料2】当時の経済状況
| 要因 | ヨーロッパが戦場になり、アジア市場から欧州製品が消えた。 |
| 結果 | 日本の製品(綿織物・船など)が飛ぶように売れた。 → 国内の商品が不足し始めた。 |
| 庶民 | 「給料は少し上がったが、米の値段はそれ以上に上がって生活できない!」 |
問1 【資料1】【資料2】に基づき、好景気であるはずの日本で「米騒動(暴動)」が発生した経済的な理由として、最も論理的な記述を選びなさい。
【正解:①】
解説: 現代の「悪いインフレ」と同じ構造です。
1. 輸出好調: 国内のモノが海外へ流出(品不足)。
2. インフレ: モノがないので価格が高騰(資料1の赤線)。
3. 実質賃金低下: 給料(名目)は増えても、物価上昇に追いつかず、買える量は減った(資料1の緑線)。
これが生活直撃の「米騒動」を引き起こしました。
2. 「アメ」と「ムチ」の1925年体制
1925年(大正14年)、加藤高明内閣は歴史に残る2つの法律をほぼ同時に成立させた。一見矛盾するこの2つの法律がセットで出された政治的意図を、次の【資料3】【資料4】から読み解きなさい。
【資料3】衆議院議員選挙法の改正と有権者数
男子普通選挙の実現(アメ)
【資料4】治安維持法(同年に成立)
第一条:
国体(天皇中心の国家体制)を変革し、または私有財産制度を否認することを目的として結社を組織した者は…
社会主義・共産主義の弾圧(ムチ)
問2 なぜ政府は、国民の権利を拡大する「普通選挙法」と、国民を取り締まる「治安維持法」をセットで成立させる必要があったのか。その政治的背景として最も適切なものを選びなさい。
【正解:②】
解説: 「アメとムチ」の政策です。
1. 統合(アメ): 米騒動などで高まった国民の不満を解消し、国家体制に取り込むために選挙権を与えました。
2. 排除(ムチ): しかし、ソ連(ロシア革命)の影響で「天皇制廃止」や「私有財産否定(共産主義)」を唱える勢力が拡大することを恐れ、これらを徹底的に排除する法律を同時に作りました。
3. なぜ政党政治は自滅したのか?(構造的欠陥)
大正デモクラシーで「憲政の常道(政党内閣)」が定着したかに見えたが、1930年代に入ると急速に崩壊し、軍部が台頭した。その原因は明治憲法自体に埋め込まれた「時限爆弾」にあった。次の【資料5】【資料6】を読み、そのメカニズムを論証しなさい。
【資料5】明治憲法における権限の所在
「統帥権の独立」により、内閣は軍を指揮・コントロールできない。
【資料6】1930年代初頭の国民感情
| 政党政治への失望 | 財閥と癒着して汚職ばかり。不況(昭和恐慌)で農村は娘を身売りするほど貧しいのに、政治家は助けてくれない。 |
| 軍部への期待 | 「腐敗した政治家や財閥を倒し、満州を奪って国民を救う」と主張する軍部の方が頼もしく見えた。 |
問3(考察) 1930年代、なぜ日本において民主的な「政党政治」は崩壊し、軍部の暴走を止めることができなかったのか。【資料5】の「法的・構造的欠陥」と、【資料6】の「社会的背景」の両面から論理的に説明した記述として、最も適切なものを選びなさい。
【正解:②】
解説(超重要):
1. 制度の穴: 「統帥権干犯問題」に代表されるように、内閣には軍を止める法的権限がありませんでした(憲法の欠陥)。
2. 民意の離反: 本来なら「民意」が軍を止めるはずですが、昭和恐慌で貧困にあえぐ国民にとって、財閥と癒着する政党政治家は「敵」であり、満州事変などで現状打破を掲げる軍部は「改革者」に見えました。
3. 結論: 制度的にも社会的にも歯止めを失い、政党政治は自壊しました(五・一五事件で終焉)。
4. 暴走する「希望」:満州事変と世論の熱狂
1931年、関東軍が独断で起こした満州事変は、国際的には非難されたが、当時の日本国民からは熱狂的な支持を受けた。なぜ違法な軍事行動が「国民の希望」に見えたのか。生存権と経済封鎖の視点からそのパラドックスを解き明かしなさい。
【資料7】「持たざる国」日本の行き詰まり(1930年頃)
当時、「満蒙(満州・モンゴル)は日本の生命線」と呼ばれた。
【資料8】世界恐慌後の国際情勢(ブロック経済)
問4(思考力) 満州事変は明らかな国際法違反であったにもかかわらず、なぜ当時の日本国民は軍事行動を非難するどころか、新聞報道と共に熱狂的に支持したのか。【資料7】【資料8】の状況を踏まえ、当時の日本人が抱いていた「正義」の論理として最も適切な記述を選びなさい。
【正解:②】
解説:
1. 追いつめられた国民: 世界恐慌で失業者が溢れ、さらに「ブロック経済」で欧米が市場を閉鎖したため、日本は「作っても売れない、資源も買えない」という国家存亡の危機(ジリ貧)を感じていました。
2. 外交への失望: 政府(幣原喜重郎など)の「国際協調」は、この飢餓状態に対して無力に見えました。
3. 武力の正当化: その中で軍部が示した「満州を奪って自給自足圏を作る」という実力行使は、侵略ではなく「生きるための権利(生存権)」として熱狂的に歓迎されたのです。
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